ほしのきらめき

いろいろごちゃまぜでパート割妄想ごっこ

もしもA.B.C-Z『花言葉』にエピローグがあったら

正式タイトル:もしもA.B.C-Z花言葉』にそれぞれのメンバーに救いようのあるエピローグがあったら

今更!!
花言葉の本編ラストだとあまりにも誰も救われないので、なんとかしてみんな幸せに出来ないかと思い妄想をしてみました。ひどい妄想です。あと文字数がムダに多く若干1名救えなかった。

※妄想過多・詩織さんとあの人の結婚エンド、あの人の彼女を捏造している描写含みますので苦手な方は読むことをおすすめしません。

























「はしもとせんせい!」

聞き覚えのある可愛らしい声が、病院とはかけ離れたイメージの大声が俺を呼び止めた。振り返らなくたって誰だかはお見通しだ。だってあんなに…淡い日々を一緒に過ごした人なのだから。
出来ることなら二度と会わないで、思い出として記憶の中にしまっておきたい人だった。それでも笑顔で振り向いてしまうのは、俺にそういった職業が染み付いているのか、はたまた諦めきれない自分がいるのか。
視界に入った彼女はとても楽しそうなあの日のままで、隣には俺じゃなくてあのひと。申し訳なさそうに声を抑えろと服を引っ張る彼に思わず吹き出してしまった。

「お久しぶりです、詩織さん、戸塚さん」

「お久しぶりです。わあ、やっぱり橋本先生ってイケメンですねぇ」
駆け寄ってきた彼女は随分伸びた髪をピンクのシュシュでくくっている。ピンクのカーディガンにピンクのシューズ、レーススカートだけがかろうじて白。入院中ずっと見てきたはずの色はきっと詩織さんにとっては『戸塚さんの色』だったんだろう、見慣れたそれがとても華やかに見えた。
なんだか良い意味で居心地が悪くて、肘で戸塚さんの肩をどんどん叩く。
「何言ってるんですか戸塚さんだって綺麗な顔してるじゃないですか!まったく詩織さんったら、いい『旦那』見つけちゃって!」
「えっへへー、でしょう!」
あっ、俺今自分で自分を傷つけた。切ない。言葉のナイフが容赦なく橋本を襲う。

詩織さんが退院してすぐは、全くといっていいほど恋人の空気じゃなかった二人。だけど記憶が戻った詩織さんが、それまでずっと愛していた戸塚さんに再び惹かれるのもまあ当然っちゃ当然のことだ。ショック、といえばショックだけどどちらかというと安心した、と思う、二人が幸せになれたんだから。
半年前に送られてきた1枚のはがきには、真っ白な服をまとってピンクのバラに囲まれた二人が映っていた。丁寧でいて男らしい字にぴったりと寄り添うトツカシオリの字を今でも覚えている。

…そういえば、そのハガキといえば、
と口に出そうとした瞬間に、どこからともなく声が聞こえた。
「次は先生が幸せになる番ですよ?」
この声にも聞き覚えがある。ハッとして窓の方へ目を向けると、視界の端っこに揺れる金髪を見つける。
「あっ!ちょっと、そこの!」
急いで手を伸ばしたけれど、彼は俺に気づくことなくロビーから病棟へ移動してしまった。不思議そうな顔で見つめてくる夫婦にどう説明していいのか分からなくなってしまう。
「あー…えっと、とりあえず、今の金髪の人、見えました?」
「見えましたけど、何ですかそういうの私苦手なんですけどまさか良くないものじゃないですか!?」
「落ち着け詩織、ちゃんと俺も見えたから…」
急に早口になった詩織さんの肩に置かれた手も震えている。このペアでお化け屋敷入れてみたいなー、なんて意地悪なことを考えた。
まあ、彼もちゃんと人間なんだ、良かった。
「あの人、俺が詩織さんの記憶を引き戻すきっかけになった人なんですよ。どこにでもいるのに俺から話しかけに行くと決まっていなくなっちゃって、でも悩んでたりするとフッと現れて一番欲しい言葉をくれるんです。」
言葉にしていたらなんだかおかしくなってきてつい笑ってしまった。そんな俺を見て、戸塚さんも頬に特徴的な線を入れながら笑う。
「優しくて素敵な人なんですね」

「あっ!そうだ、優しくて素敵な人といえば、私今日五関先生に会いたくて来たんですよ!」
「っは!?」
思わず変な声が出た。患者さんにとっては優しくて素敵な人、イコール五関先生なのか。あの人も正体不明なんだよなあ、妙にキツイくせに妙にナースさん達から人気あるし。
と思ったら、詩織さんだけじゃなく戸塚さんまで目を輝かせながら俺を見てくる。
「橋本先生にはちょくちょく手紙出してたりするんですけど、どうも五関先生とはタイミングが合わなくて…もう一度ちゃんとお礼も言いたいなと思いまして」
「あー、なるほど……」
わくわくとシンクロしながら待ち続ける二人に、俺は真実を伝えるべきか迷った。迷ったけど、嘘をついても仕方無いし。
「すごく言いづらいっちゃ言いづらいんですけどね、」



五関先生、しばらく前に医者やめちゃいました。



****


「へえー詩織さんが!俺しばらく詩織さん見てないなー、戸塚さんは今でもバラ買いに来てくれたりするんだけど」
相変わらずの饒舌を見せながらもはや日課であるカスミソウと赤いバラの花束をつくるお花屋さん。
少しずつ客が増えて一人で回していくのも大変だろうに、河合さんは一向に人を雇う様子がない。たまにあの清掃員さんが店先の掃除を手伝ってるけどね。
「しっかし、橋本も物好きだねぇ、既婚女性に贈られた花を二日に一回のペースで買っていくなんて。うちに来る男性客だって片手に入りきるくらいなのに、特にお前って頻繁に来るから」
「その小さい手に入りきるんですか?」
「えっ今絶対僕のことバカにしたでしょ?すいませんね数え切れるの間違いでした」
そう言いつつ河合さんは笑顔で紫のリボンを巻いていく。これ僕のイメージカラーなんで、なんてニヤニヤしていたのはいったい何年前なんだろう。長い付き合いの間で、花屋と客の関係は兄弟、または漫才コンビへと変わっている、確実に。

あの日贈られたカスミソウは、名目上では『感謝』っていう花言葉でのプレゼントだと言われていた。
でもしばらくしてから謎の清掃員が落としていった紙切れに、明らかに清掃員本人の字で詩織さんの真意が書いてあって。
『カスミソウって、いっぱい花言葉があるんですよ
そのひとつが幸福なんです
つまり、幸福をプレゼントする 幸せになってね
ってことです 次は橋本先生の番ですよ』
これを見てからカスミソウが大好きになっちゃって、独り身のくせに週3ペースで花を買う男になっちゃったんです、俺は。でもこれは未練なんかじゃなくて、詩織さんが幸せになれますようにっていう願掛けの方が近いかもしれない。
…むしろ未練があるのは、

テーブルに置かれた小さめなバラの花束。河合さんは寂しそうな顔でそれを見つめている。
「やっぱり、来ないんですか?予約した人」
「うーん…あの人のことだから忘れてんじゃないのかとは思うけど。やっぱり花なんかどうでもいい人なのかなー」
少しだけ緩んでいた青いリボンを結び直す手は、でも言葉とは反対にずっと待っていると言いたげな手だ。もう1年以上前の話なのに、ずっと毎週バラを仕入れてるんだから河合さんは本当に客に未練タラタラだと思う。赤と白のそれを、11本。青いリボンだけ減りが早いの、俺も知ってる。
「でも患者さんから見たら優しい人だって言ってましたし、来ると思いますよ」
「えー橋本が言うなら来るかもなー」
「今日一日で詩織さん戸塚さん清掃員さんのトリプルコンボですよ?ここまで来たら会わなきゃだめでしょ、五関先生にも」
そう呟いた瞬間、カラリと控えめな音をたててドアが開く。まさか本当に?
振り向いた瞬間、目に入ったのはーーーー金髪。
「お前かよ!」
「ええっ!?僕なんか悪い事しましたっけ!?」


****

花束が潰れないように必死に抱えながら、即席で用意された地図(清掃員さんの手書き)の通りに走る。走って、走って、地図の終わりで立っていた人物に叫ぶ。
「五関さん!」
「…橋本?」
片手に大きな荷物を提げたままでスマホをいじる五関さんは当たり前だけど見慣れない私服姿。俺を見て、というよりは俺が抱えてるものに驚いてる感じだ。そりゃそうだ、俺今50本のバラ抱えてる。
「お前、随分ハデな告白するんだな…」
「ちがいます!これ五関さんの分だから、はいこっち持つから花束持って!」
「ちょ、ちょっと待てって、俺すげー花粉症で」
「知らない!」
大きさのわりに軽い…まだ軽い荷物をひったくって花束を押し付ける。不安げな五関さんの顔を見ていると、色々な思いが、河合さんの、戸塚さんの、ツカダさんの、俺の思いが溢れてきた。
「ずっと河合さんが花束作って待っててくれたんですよ、53週間分全部渡してやろうかと思ったけど俺そんな持てなかったから5週間分で妥協したんです、50本」
「…5本足りねえじゃねーか」
「それは俺からの逆プレゼントです、そっちの方が花言葉的にいいかなって。あと周りのカスミソウも、トッピング?です、戸塚さんも心配してたから赤と白プラスピンクで作って、あと、えっと」
「…塚ちゃんは?」
「……、もぅう分かってるんだったら勇気出せよ仕事まで辞めたくせに結局1回も会ってあげないとかさぁ…」
ケラケラと笑う五関さんに項垂れながらポンと背中を押す。あれこの人こんな小さかったっけ。いっつもシークレットブーツでも履いてたんじゃないの。

笑っていた五関さんが少しだけ表情を固くする。仕方ないから水は俺が汲んであげますから、あとは意外と腕力あるんだから一人でいけるでしょ。見た感じ一通り準備は出来てるみたいだし、こういう場は邪魔者がいちゃいけないって昔から決まってる。
重くなった荷物も抱えさせて、でも五関さんは何にも言わないで立ってる。あー、確か5年振りなんですっけ。俺が緊張してきたわ、もう。
少しだけ泣きそうになりながら、改めて背中を押す。小さいけど筋肉がしっかりあって頼りになる背中だった。
「塚ちゃん、からの伝言です」

ずっとずっと、五関くんのこと待ってるはずだよ。
今日は晴れてるから、暑がってると思う。

クスリと笑う声が聞こえて、確かに五関さんは一歩ずつ踏み出してった。
ああ、これで本格的に俺だけ置いてかれたなー。早く幸せ見つけないと。てかなんでキューピットみたいになってんだろ俺。ここまで来たら河合さんとツカダさんにも恋人見つけてあげないとなあ。
ふと懐かしい歌を思い出して口笛を吹いてみる。詩織さん、俺あのあと必死にこの曲調べたんだよ、A.B.C-Zっていうグループの花言葉って曲だった。俺たち、…いや、詩織さんにピッタリな曲名でしょ。戸塚さんに教えておいたからもし良かったら聞いてよ。俺はその思い出だけで幸せになるからさ、詩織さんは戸塚さんとこの曲聞いて幸せになってね。
あーしんみりしてきた。場所が悪いんだよ場所が。雲一つない青空の下、花の香りに混ざって線香の匂いなんかしてきたらさ、当事者じゃなくても…泣いちゃうじゃん、ねえ。




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50本のバラ花束『永遠』
赤と白のバラ花束『結婚してください』

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